食いしん坊仲間 小松左京 |
作家 |
石毛直道さんとは、故・梅棹忠夫氏直系の文化人類学者として、七〇年万博以前からのおつきあいだ。私より六歳も若いのに、大人の風格がすでにあり、尊敬していた。
石毛さんは特に食の人類学の専門家になられたが、私自身も食いしん坊で、海外旅行の楽しみは、旅客機の中のエア・ランチだった。酒も食も強い石毛さんと知り合ってからは、ともに飲み食いしながらの談論風発を楽しみ、シンポジウム(饗宴)を深めてきた。我が家に高いシェフ帽を被って訪れ、捕れたての狸を料理してくれた事もある。ちなみに彼の銘「大食軒酩酊」は、私の命名である。
『自選著作集』では、石毛さんらしいフィールドに基づいた学問の成果と、剛胆かつ繊細な人間的魅力がともに味わえることだろう。食いしん坊には、見逃せないメニューだ。 |
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人類学者石毛直道さんの全貌 熊倉功夫 |
静岡文化芸術大学学長 林原美術館館長 |
石毛直道さんの著作集がいよいよ出版されるという。待望の企画である。
食文化研究のパイオニアとしての石毛さんはだれでも知っているが、その背景にある、住居空間からレトロウイルスまで、トンガからアフリカまで、人類学のあらゆる分野に研究の触手をのばしてきた文化人類学者石毛直道の全貌が、今回の著作集で明らかにされることがありがたい。
国立民族学博物館三代目館長として日本の人類学界をリードしてきた奮闘ぶりを同僚の目でみてきた。その精力的な研究を支えるフィールド調査の実体験(何でも食べてみる)と文献の確かな知識が両々相俟ってのバランスのよさ、正確な記憶力と論理の明快さは、会うたびに驚かされる。それがなくては、これだけの大著作はできるはずがない。 |
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食に関わるすべての分野に必読 江原絢子 |
東京家政学院大学名誉教授 日本家政学会食文化研究部会部会長 |
著者による食文化の定義は、多くの著作物に必ず引用される程定着している。それは、著者が食文化研究の先駆者であり、膨大な研究蓄積があることによる。麺、乳の文化、発酵食品、飲料の文化など個別の食文化から比較食文化、食事の文明論に至るまで実に幅広い論攷は、現地調査に裏付けられた説得力を持って私たちを強く魅了する。
調理に関する著作を改めて読んでみると、以前は気づかなかった新たな課題を発見でき、調理学、栄養学、食育などの分野にも著者の広い視野に立った食文化の視点が必要なことを実感する。スケールの大きな数々の著作には、経験者だから見えている課題が盛り込まれているが、何より読んで楽しく、やる気を起こさせてくれる。 |
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旅と食の師、石毛直道 |
森枝卓士 フォトジャーナリスト |
ふつうの海外旅行でさえ、夢だった頃。海外に行けるのは兼高かおるさんだけだと思っていた頃。若き石毛直道はトンガやアフリカを旅していた。調査という名の冒険の旅。
海外や冒険、探検を夢見るだけだった、当時の学生、つまり、私たちの世代は、その結実を見て憧れたものだった。いつか、自分たちもそのような旅をしたいと。
たくさんの水が橋の下を流れた。私たちもそれなりに年をとった。海外も当たり前になった。が、情報や価値観の渦の中で、視点を見失う。そんなときに、「たとえば、食という視点」からものを見ること、考えることを教えてくれた人がいた。
その石毛先生の集大成。私たちの共有する財産である。読み返すことから、未来も考えたい。 |
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